この体たらく

電車で行くよりもバスの方がよっぽど早いと思って、巡回バスを選んだ。
座っていないと車酔いしてしまうため、窓際の席に座る。
運転席の真後ろの席に小学校4年生くらいの女の子が座った。
発車時刻まではまだ間があり、乗客は静かに待っていた。
すると、開きっぱなしのドアから一匹の蛾が入ってきた。
女の子は蛾に気付くと恐怖の表情でこちらへ近づいてきやしないかと、
蛾をずっと目で追っている。
自分も虫は大の苦手で内心ハラハラしていたが、
女の子の表情を見れば、今どのあたりに蛾がいるかがよくわかった。
蛾は外へ出て行くことなく、発車時刻になりドアが閉まった。
車内をあちこち飛び回る蛾も一緒にバスはとろとろ動きだした。
週末の夕方で、道は大渋滞。なかなか進まない。
停留所にもしょっちゅう停まる。
蛾は出て行かない。
女の子の怯えた表情。
はやく着いて欲しい・・・
と、ある女性が乗り込んできた。
その女性がバス後方に歩き始めたところで、
あの女の子が女性の肩をたたき、「どうぞ」と席を譲った。
自分からは見えなかったのだが、その女性は妊婦タグを付けていたようで、
女の子はすぐさま行動に出たのだ。
席を譲った女の子は、運転席横の手すりにつかまり立っていた。
しばらく走ると、女の子が降りる停車場に着いた。
女の子は運転手さんに「ありがとうございました!」とはっきりとした澄んだ声で礼を言い、
振り返ってバスを降りるときに、席を譲った女性に「どうもありがとうね」と言われていた。


蛾も追い払えず、席を譲る行動にも出ず、終始座りっぱなしの自分。
待ち合わせにも遅れて。なんたることか。