ミナトで待ってる

小学校高学年の時、同じクラスだった彼は小柄で色黒で可愛らしい子だった。
みんなに優しい子だった。
特に約束はしなくても、校庭開放で会って遊んだ。
ゲームセンターの格闘ゲームが上手だった。
駄菓子の変わった食べ方、イタズラ電話、吉田戦車の漫画。
彼を含め、ちょっと個性的な面々で集まって遊ぶのが楽しかった。
彼が妹の面倒を見なくてはいけない日は遊べなかった。


彼は勉強が苦手だった。
忘れ物も多かった。
強烈な暴力教師に怒られてばかりで、涙で顔をぐちゃぐちゃにしていた。
小柄なこともあるからか、運動もそんなに上手ではなかった。
しかし、体育のマット運動の時、彼だけが出来た伸膝前転。
それはそれは見事。一気に注目が集まった。
そうなのだ、彼は運動神経が悪いわけではない。
実は頭の回転もいいし、マット運動や鉄棒はとても上手だったのだ。


同じ中学に進んだが、以前のように遊ぶことは無くなった。
3年の時は同じクラスだったが、進路はわからなかった。
最近聞いた話だが、高校ではなく専門学校に進んだらしい。
ある学校に面談に行ったとき、自分の学校名が漢字で書けなかったという。


彼の実家があった辺りを通ると、
見事な伸膝前転を思い出す。





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エル ELLEポール・バーホーベン監督